いたぞ、苦学生

 かつて集団就職列車というのがあったのをご存じだろうか。地方の中卒者が金の卵ともてはやされ、労働力として大都市に大量に送り込まれてきたのです。高度成長期とはいえ、あの騒ぎはいったい何だったのでしょうか。集団就職は過去のものとなりましたが、若者の流れは別の形となって、今も東京に向かっています。多くの若者が東京の大学を目指しているのです。

 コロナ禍の東京で、若者が抱える問題が浮き彫りになりました。そのひとつが苦学生の存在です。死語になったかと思っていた苦学生が、まだ存在していたのです。しかも、大量にいるようです。

 地方から志を抱いて東京の大学に学びに来る若者たち。それを支える親御さんの苦労は想像に難くありません。入学金を始め毎年の授業料、そして生活費、中でも東京周辺の家賃は馬鹿になりません。しかも「オートロックのマンションでなければいや」などと贅沢を言うものですから、毎月の仕送りで親は干上がってしまいます。当のご本人も、少しでも親の負担を軽くしようと、勉強の時間を削ってでも日々アルバイトに励みます。こうなると本末転倒の感が強くなり「あれ? 東京の大学に勉強するために来たのでは」と、先ほどの「苦学生」は何処かへ行ってしまい、気持ちが落ち着かなくなってきます。ひょっとすると「東京に出て来たかっただけ」なのではないのだろうか。だとすると、彼らの将来は大丈夫なのだろうか。親でもないのに心配でしょうがなくなります。

 東京は仕事を選ばなければ生活することはできるでしょう。しかしその多くは非正規雇用のアルバイトで、正社員のように賞与、退職金、年金などの恩恵を受けることができず、将来の成長を期待することもできません。下手をすると転職の渦に巻き込まれることになってしまいます。要するに生活設計が立てられないのです。

 東京の大学を目指す皆さんは、東京に行かなければならない理由をよく考え、親御さんととことん話し合っておいてください。そして、地元に教育内容の充実した大学があるはずです。東京に出て来るのは、そこの大学で学び、社会的自立の目処が立ってからでも遅くはありません。

 かく言う私は、帰省する故郷がありません。さみしいものです。

by MATSUTANI