小論文第12回 介護とヤングケアラ―
本年10月、ある裁判で22歳の幼稚園教諭だった女性に懲役3年、執行猶予5年という判決が言い渡されました。女性は母親の死後、中学生のころから同居していた90歳になる祖母を一人で介護していたのですが、学業や仕事と認知症の進む祖母の介護の両立に苦しみ、思い余って殺害してしまったという哀しい事件でした。「介護で寝られず、限界だった」という女性が最後の一線を越える前に、苦しむ彼女に手を差し伸べられる人はいなかったのでしょうか。
日本には古くから「家」制度が存在し、家族の問題は家族が処理してきた背景があります。それゆえ、「高齢者の介護は家族がやるべきだ」という考え方が根強くあるのも事実です。しかし、介護の現実は、食事の世話から入浴介助、汚物処理等の身辺の世話から始まり、認知症状や徘徊が始まればゆっくり睡眠をとることも難しくなります。医療が発達した現在は、それが何年にもわたって同じ状況が続くことになります。その長い介護生活を想像すると「介護は家族で行う」ということには、簡単には賛成できないように思えます。
①問題視される若年介護者やヤングケアラ―
高齢者介護の場合に問題となるのは「老老介護」や「認認介護」など、介護者も被介護者も高齢者というケースが多いのですが、近年は冒頭に挙げた女性のように、若年者や10代の子どもが介護者というケースも増えてきています。総務省の統計にもとづく分析によると、通学や仕事をしながら家族を介護する15~19歳の子どもは、2017年時点で3万7000人もいることが分かりました(2020年、毎日新聞分析)。こうした子どもは、家族の介護負担が過度になれば心身や学校生活に影響が出かねません。事実、進学や就職などの人生の選択肢を狭めてしまうことも少なくないのです。「ヤングケアラ―」と呼ばれるこういう子どもたちが支援を受けられずに周囲から孤立することのないよう、教師や学校関係者が状況を把握して支援につなげることが望まれます。
②社会のサポートを上手に活用する
高齢者介護では、周りの人に状況を把握してもらうことが大切です。介護者が一人で悩んでいるだけでは、情報を集めるのも難しいでしょう。他人の手を借りたり、家族を施設に入れたりすることに罪悪感を覚える人がいますが、そういった意識こそが介護を危険な状況に追い込むことになります。高齢化と核家族化が進んだ現代社会では、他人や行政の助けを借りてこそ、健全な介護を行えるのです。厚生労働省は、「社会全体で高齢者を支えよう」という提言をしています。地域密着型で高齢の要介護者をケアしていこうという考え方です。高齢者と社会との接点があれば、何か起きたときに誰かが気づいてくれる可能性が高まります。困ったときは、親戚や地域、そして行政に相談するのが、深刻な状況にならないためにも大切なことでしょう。
③「世間体」を変える意識改革を
高齢者介護のあり方として、主として公の支援を受け、家族は精神的つながりを担当する方向にいくことが望ましいのですが、現実には「介護は家族がやるべき」という人間の意識を変えることはなかなか難しいものです。高齢者介護は家族だけの問題ではないのだと意識を変えるためには、小・中学校段階における啓発教育も必要でしょう。さらにはボランティア活動や地域のお年寄りとの交流などを通して、早期に介護の現状を学ぶ手立てなども考えてみましょう。
介護は誰もが無縁ではいられない問題です。介護される側だけでなく、介護する側に目を向けることが、より大切になってきているのです。
by KAITOU