「考える」こと

 雑誌の編集をしていたせいか、私の趣味は雑多で浅い。その中でも長く続いているのが木登り、分かりやすく言えば庭木の剪定です。天気のいい日に木に登ると自分が自然の一部になったようで実に気持ちが良く、時が経つのを忘れてしまいます。趣味とは何かに没頭出来る時間のことを指すのではないでしょうか。

 先日、部屋の片付けをしていると、箱の中から小さなスピーカーが2個出てきました。気に入っていたラジカセが壊れたので、捨てる前に分解して使えそうな部品を取っておいたのをすっかり忘れていました。これに合う木の箱を作って鳴らしてみようとホームセンターに出向くと、丁度よさそうな板切れが50円、安いものです。図面を引いて加工して組み立てて鳴らしてみると、これが驚きのいい音で大満足。1週間程度の良い暇つぶしになりました。

 私は大学の理系出身ですが、昔の学生は実験道具から計測器まで何でも自分で作っていました。今の学生は買ってきてしまいます。裕福になったと言えばそれまでですが、自分で工夫して作らない。失敗しながらああだこうだと頭を使うのが面白いんですね。その過程で思わぬ発見があったりもします。

 理系人間だからそうなんだろうと思われるかもしれませんが、文系だって最近は自分の頭で考えない。「先生、説明はいいですから早く答を教えてください」などと、すぐに結論を聞いてきます。自分で考えない指示待ち人間を大量生産しているような気がします。哲学科が不人気なのもこんなところに原因があるのかもしれません。

 新型コロナウイルスの感染者が増加する中、研修医が注意喚起を受けているにもかかわらず集団で飲酒会食し多数の感染者を出しました。倫理観が欠如しているとしか思えないこの行動は、感染症と闘っている全ての医療従事者の顔に泥を塗る恥ずべき行為です。こうした医者が社会に出ると思うと空恐ろしくなります。社会は「考える」ことを求めていないのでしょうか。人工知能(AI)がやってくれるから大丈夫だということなのでしょうか。

 国立情報学研究所の新井紀子先生が「日本語の読解力」の大切さを言っておられます。AIには代替出来ない能力だそうです。詳しく知りたい人は先生の著作物を読んでください。「その本のタイトルを教えてください」「何を調べたらいいんですか」などと言わずに、ご自分で調べてください。先生の著作物以外に興味を持てる本が見付かるかもしれません。

図書室や書店で書架を眺めるのは私の趣味のひとつでもあります。

by MATSUTANI